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食品の輸出促進法とは?基礎知識や品目団体について解説

農林水産物や食品の輸出状況

食品輸出に取り組む際、まず日本の農林水産物や食品の輸出状況を把握することが重要です。

輸出状況を理解することで、市場動向や競合他社の動きを分析できます。また、政策の変化にもスムーズに対応することができるでしょう。さらに、生産者との連携強化にもつながります。

食品輸出に携わる事業者にとって、日本全体の輸出動向を常にチェックしておくことは、戦略的な意思決定に欠かせません。輸出状況を踏まえた上で、自社の強みを活かした展開を図ることが求められます。


- 2023年は過去最高の輸出額

2023年の農林水産物・食品の輸出額は、前年比から2.9%増加し、過去最高の1兆4,547億円となりました。特に牛肉については、新型コロナウイルスに関連した外出規制が撤廃されたことで、香港や台湾で回復した需要が輸出を後押しし、輸出額上位の3位に入っています。

さらに、円安により日本製品の価格競争力が海外市場で高まり、多くの品目で輸出額が伸びる結果となっています。

このような状況の中で、政府は輸出促進法に基づき、さまざまな支援策を展開しています。

参考:農林水産省「2023年農林水産物・食品の輸出実績」


- ホタテは前年比24.4%減

輸出額が大きいのはアルコール飲料(1,350億円)、ホタテ貝(689億円)、牛肉(570億円)となっています。東京電力福島第1原子力発電所におけるALPS処理水問題に伴い、中国や台湾による水産物規制の影響を受け、2022年に品目別のトップだったホタテの輸出額は大きく減少しています。

一方でアメリカへのホタテの輸出は前年比52.5%増となっています。もともと、日本から輸出したものを中国で加工しアメリカへ再輸出されていましたが、日本からアメリカへの直接輸出に切り替わる動きが見られています。

また、外出産業の回復よってソース混合調味料(543億円)の輸出額も増えています。

参考:ジェトロ(日本貿易振興機構)「2023年の日本の農林水産物・食品輸出額、前年比2.9%増」


- 国・地域別では中国がトップ

2022年に引き続き、2023年も日本の農林水産物及び食品輸出における最大の輸出先は中国となりました。ただし前述した通りの影響も生じており、アルコール飲料のほかホタテなどの海産物の輸出は減少しています。

また、香港に対する輸出では真珠の輸出が前年2.2倍に拡大しています。

参考:ジェトロ(日本貿易振興機構)「2023年の日本の農林水産物・食品輸出額、前年比2.9%増」

農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律(輸出促進法)とは

輸出促進法は、日本の農林水産物・食品の輸出拡大を図るために、2019年11月に公布され、2020年4月に施行された法律です。

輸出促進法の主な内容は、以下の通りです。

  • 輸出事業者の支援
  • 輸出の円滑化
  • 基本方針及び実行計画の策定
  • 品目団体の認定制度

2022年5月には輸出促進法が改正され、輸出重点品目の指定や輸出事業計画の認定制度の創設などが行われました。これは、政府が掲げる2030年に5兆円の輸出額目標の達成に向けた取り組みの一環です。

輸出促進法は、日本の農林水産物・食品の輸出拡大を後押しする重要な法律であり、輸出に取り組む事業者にとって、その内容を理解することが不可欠です。


- 輸出促進法の目的

輸出促進法は、日本国内で生産された農林水産物及び食品の輸出促進を目的とした法律です。

我が国で生産された農林水産物及び食品の輸出の促進を図るため、農林水産物・食品輸出本部の設置並びに基本方針及び実行計画の策定について定めるとともに、輸出証明書の発行等、輸出事業計画の認定、農林水産物・食品輸出促進団体の認定その他の措置を講ずることにより、農林水産業及び食品産業の持続的な発展に寄与することを目的とする。

引用:e-GOV法令検索「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律 第一条」

この法律の施行により、国内の高品質な農林水産物や食品のさらなる輸出拡大が期待されています。日本の農林水産物・食品の魅力を世界中に発信し、その評価を高めることが狙いです。

また、輸出促進法は、輸出先国との協議や、輸入条件に適合した証明書の発行など、輸出の円滑化に必要な手続きの整備にも重点を置いています。

これにより、輸出事業者は国際市場での競争力を強化し、日本の農林水産物や食品の魅力を世界に広めることができるでしょう。輸出促進法は、日本の農林水産業や食品産業の発展に大きく寄与すると期待されています。


- 輸出促進法の定義

輸出促進法における「農林水産物」の定義は広範囲に及び、農林水産物そのものだけでなく、それらを原料または材料として製造・加工したものも含まれます。

また、「食品」については、医薬品医療機器等法で定められた一部の商品を除く、全ての飲食物を指します。つまり、輸出促進法の対象は、生鮮品から加工品まで幅広い農林水産物と食品であり、日本の食の魅力を海外に発信するためのあらゆる品目が含まれていると言えるでしょう。

この広範な定義により、様々な事業者が輸出促進法の支援策を活用し、日本の農林水産物・食品の輸出拡大に取り組むことができます。


- 輸出促進法改正の背景

2022年10月1日に施行された輸出促進法の改正は、日本の農林水産物及び食品の更なる輸出拡大を目指す上で重要な意味を持っています。

政府が掲げる2025年に2兆円、2030年に5兆円の輸出額目標を達成するため、オールジャパンでの輸出先国・地域のニーズ調査やブランディングを行う団体の認定制度の創設、輸出事業計画の認定を受けた者に対する新たな金融上の措置など、輸出拡大に向けた施策が強化されました。

この法改正により、以下の措置が追加されています。

  • 民間の登録発行機関による輸出証明書の発行
  • 日本政策金融公庫による資金援助や債務保証

輸出促進法の改正は、日本の農林水産物及び食品の輸出促進に向けた国の強い意志の表れであるほか、より多くの事業者が輸出に取り組み、日本の優れた農林水産物・食品が世界中で評価されるなど、今後の輸出拡大のための基盤強化に重要な役割を果たすものとして期待されています。

参考:農林水産省「輸出促進法改正による支援」

輸出促進法の概要

輸出促進法の概要を理解することは、食品輸出に関わる事業者が利用できる支援策を把握したり、政府の輸出促進方針を理解したりする上で非常に重要です。

また、輸出促進法は日本の農林水産物・食品の輸出拡大を通じて、これらの産業の発展と国際競争力の強化に寄与するものです。そのため、輸出事業者だけでなく、日本の農林水産業・食品産業に関わる全ての人にとって重要な法律です。

ここからは、輸出促進法の主な内容について詳しく解説します。


- 農林水産物・食品輸出本部の設置

農林水産物・食品輸出本部は、農林水産大臣を本部長とし、総務大臣、外務大臣、財務大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、復興大臣を本部員とする省庁横断的な組織です。

本部の主な役割は、以下の通りです。

  • 輸出促進に関する基本方針の策定
  • 実行計画(工程表)の作成・進捗管理
  • 関係省庁の事務の調整

これらの役割を果たすことで、本部は政府一体となった輸出促進を推進します。

また、本部は関係省庁間の連携を強化し、各省庁の専門知識やリソースを結集することで、輸出に関する様々な課題に対応します。これにより、オールジャパンで輸出拡大を進めていくことが可能となるのです。


- 国等が講ずる輸出を円滑化するための措置

輸出促進法により、輸出手続きの法的根拠が明確化され、輸出の円滑化が図られました。具体的には、以下の3点が法律上規定されています。

  • 輸出証明書の発行
  • 生産区域の指定
  • 加工施設の認定

これらの規定により、農林水産大臣、厚生労働大臣、財務大臣といった主務大臣及び都道府県知事等が、輸出に必要な手続きを法的に裏付けられた形で行えるようになっています。

さらに、改正法では民間の登録認定機関による加工施設の認定、登録発行機関による輸出証明書の発行も可能となりました。これにより、行政の負担軽減と手続きの効率化が期待され、民間の専門性を活かすことで、輸出事業者のニーズにより柔軟に対応できるようになるでしょう。


- 基本方針及び実行計画等

基本方針では、以下が主要項目として示されています。

  • 輸出先国の輸入条件に関する協議
  • 輸出円滑化のために必要な証明書の発行や手続きの整備
  • 事業者支援の基本事項
  • 輸出促進のための施策
  • 国および都道府県の責務

これらの項目は、輸出促進のために必要な施策の基盤を形成し、国内外の市場で日本の農林水産物や食品がより競争力を持てるようにするための指針となります。

実行計画では、主要項目として以下が定められています。

  • 重点的に輸出促進を行う輸出先国、農林水産物・食品
  • 措置の内容と実施期間
  • 措置の担当大臣

これにより、輸出促進のための具体的なアクションが計画的に実行され、目標達成に向けた取り組みが進められます。


- 輸出を行う事業者に対する支援措置

政府は、農林水産物及び食品の輸出促進を目的として、輸出を行う事業者に対して積極的な支援を行っています。その中心的な取り組みのひとつが「輸出事業計画」の提出とその認定です。

輸出事業計画とは、農林水産物や食品の輸出拡大を目指す事業者が、生産、製造、加工、または流通の合理化や高度化などの改善を図るための計画を指し、事業者はこの計画を農林水産大臣に提出し、認定を受けることができます。

この支援には、日本政策金融公庫による融資や債務保証など、事業者が輸出活動を行う上で必要な資金面での援助が含まれます。


- 品目団体の認定制度

輸出促進法に基づき、日本政府は輸出重点品目ごとに、生産から販売に至るまでの関係者が連携し、輸出の促進を図る法人を認定品目団体として認定する制度を設けています。

この制度は、輸出促進法の改正に伴い、令和4年10月1日から開始されました。

農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略で掲げる29の品目が対象で、これには牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、牛乳乳製品、りんご、いちご、切り花、茶、コメ・パックご飯・米粉及び米粉製品、製材、合板、ホタテ貝、ぶり、たい、真珠、錦鯉、菓子、味噌・醤油、清酒(日本酒)、本格焼酎・泡盛などが含まれます。

認定された団体は、輸出先国でのニーズ調査、商談会参加など、輸出促進に向けた様々な活動を行います。

参考:農林水産省「輸出促進法に基づき1団体を認定品目団体(農林水産物・食品輸出促進団体)として認定」

輸出促進法に基づいた支援策

輸出促進法に基づく支援策を理解し、活用することは、事業者が輸出に関する様々な課題を克服する上で非常に重要です。例えば、資金面での支援や手続きの簡素化など、輸出活動を円滑に進めるためのさまざまな援助を受けられたり、国際市場での競争力を高めたりできるでしょう。

支援策を積極的に活用しながら、日本の農林水産物・食品の魅力を世界に発信していくことが求められています。


- 農林水産物・食品輸出基盤強化資金

輸出促進法の改正を受けて創設された農林水産物・食品輸出基盤強化資金は、輸出事業者を強力に支援するための融資制度です。

この制度は、輸出促進を目的とした独立の制度資金であり、輸出事業に関連する多様な用途に、有利な条件で融資を受けることができます。

食品だけでなく非食品の品目もカバーし、長期運転資金や海外子会社への転貸も可能となっており、事業者の様々なニーズに応えられる設計となっています。

また、償還期限が25年以内と長期に設定されているため、大規模な投資にも対応可能です。中小企業者に対しては、さらに長い10年超25年以内の償還期限が適用されます。

農林水産物・食品輸出基盤強化資金は、輸出にチャレンジする事業者を資金面から強力にバックアップする制度であり、日本の農林水産物・食品の輸出拡大に大きく寄与することが期待されています。

参考:農林水産省「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」


- 借入手続きの流れ

借入手続きの大まかな流れは、以下になります。

  1. 輸出事業者は輸出事業計画を作成
  2. 事業計画書や決算書などとともに日本政策金融公庫へ融資を申し込む
  3. 日本政策金融公庫が審査を行い、融資の可否を決定
  4. 輸出事業者と日本政策金融公庫との間で融資契約が締結

融資契約が締結されると、輸出事業者は資金を受け取り、輸出に関連する事業活動に利用することができます。返済は、契約に基づいた条件に従って行われます。通常、返済期間は25年以内とされており、事業者は長期にわたって安定した資金運用を行うことが可能です。


- 農林水産物・食品の輸出拡大に向けた税制上の措置

輸出事業者は設備投資後のキャッシュフローを改善するために、事業の輸出拡大を後押しするための5年間の割増償却措置を受けることができます。

この措置は、輸出促進法改正により導入されたもので、輸出事業用資産に対して適用されます。割増償却を受けるためには、事業者が輸出事業計画を作成し、認定される必要があります。

この税制上の措置により、輸出事業者は設備投資に関する初期コストの負担を軽減し、長期的な事業展開を計画しやすくなります。


- 割増償却を受けるための手続きの流れ

割増償却を受けるための手続きの流れは以下の通りです。

  1. 輸出に関連する事業計画を作成
  2. 作成した輸出事業計画を農林水産大臣に提出
  3. 認定後、輸出事業用資産の利用実績を報告
  4. 減価償却の適用

事業計画は、輸出拡大に向けた具体的な戦略と目標を明確に示すことが重要で、認定を受けるためには、計画の内容が輸出促進法の趣旨に合致し、実現可能性が高いことが求められます。

償却の適用期間は5年間であり、この期間内に資産の取得や製作を行う必要があります。

参考:農林水産省「農林水産物・食品の輸出拡大に向けた税制上の措置」


- 日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット

輸出促進法の改正に伴い導入された、日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジットは、輸出事業者の海外での資金調達を支援するための制度です。

認定輸出事業者の海外現地子会社等が、海外の提携金融機関から現地通貨建ての融資を受ける際、日本公庫が信用状(スタンドバイ・クレジット)を発行して債務を保証します。これにより、海外での円滑な資金調達を可能にします。

また、提携金融機関として、中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、メキシコ、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムなど、各国の主要銀行が参加しています。

本制度を利用するメリットは、以下の通りです。

  • 海外での円滑な資金調達
  • 為替リスクの回避
  • 国内親会社の財務体質改善
  • 海外での経営管理体制の強化

現地通貨での資金調達を円滑化し、為替リスクを回避できる点は、事業者にとって大きなメリットと言えるでしょう。

参考:農林水産省「日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット」


- 認定農林水産物・食品輸出促進団体(品目団体)

品目ごとの横断的な輸出促進体制を構築し、日本の農林水産物・食品の輸出力強化を図るものです。生産者から販売業者まで、サプライチェーン全体での連携を促進する点が特徴です。

輸出品目ごとに、生産から販売までの関係者が連携し、輸出促進を図る法人を国が認定します。令和4年10月より制度が開始されました。

個々の産地・事業者では取り組みが難しい、非競争分野の輸出を促進するために、市場調査、ジャパンブランドによる共同プロモーションなどを行い、業界全体の輸出拡大を目指します。

認定品目団体へは、以下の支援措置があります。

  • 中小企業信用保険法の特例
  • 食品等流通円滑化機構(食流機構)による債務保証
  • 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)による協力
  • 日本貿易振興機構(JETRO)の援助

認定品目団体の活動は、非競争分野に焦点を当てることで、業界全体の利益につながるでしょう。

輸出促進法に関するQ&A

輸出促進法についてよくある質問として、代表的なものが以下の2つです。

  • どこに問い合わせればよいか?
  • 審査の手数料はいくらか?

食品輸出に関わる事業者が感じる疑問について、その回答とあわせて解説します。


- 輸出促進法に関する問い合わせ先は?

輸出促進法に関する問い合わせ先として、農林水産省は農林水産物・食品の輸出をサポートするための一元的な相談窓口を設けています。

この窓口では、輸出先国・地域の輸入規制や日本政府の輸出証明書の発行手続き等についての相談を受け付けており、輸出事業者や関係者からの様々な質問に対応しています。

相談窓口には、以下のような具体的な輸出に関する質問も可能です。

  • 輸出先国から輸出品の産地証明が求められた場合の取得方法
  • EUに水産物を輸出する際の規制対応
  • アメリカへの牛肉輸出に必要な手続きなど

また、JETRO(日本貿易振興機構)でも、輸出先国の各種規制内容等に関する実務的な相談窓口を開設しており、輸出に関するサポートを提供しています。相談窓口への申し込みは、電話またはメールで行うことができます。


- 審査にかかる手数料は?

輸出促進法に基づく各種申請の審査には、一定の手数料が発生します。

 輸出証明書(衛生証明書)の発行申請に対する審査

 申請1件につき870円

 現地審査を「必要とする」適合施設の認定申請

 申請1件につき20,900円

 現地審査を「必要としない」適合施設の認定申請

 申請1件につき10,400円

参考:農林水産省「輸出証明書のオンライン申請手続」
参考:農林水産省「国による適合施設の認定手数料について」

ただし、これらの手数料は申請内容によって異なるため、事前に確認が必要です。

手数料の支払い方法は、申請窓口で直接現金を支払うか、指定の口座に振り込む必要があります。なお、一度支払った手数料は、申請が却下された場合でも原則返金されないため注意が必要です。

まとめ

輸出促進法は、日本の農林水産物・食品の輸出拡大を図るために、2019年に施行された重要な法律です。

この法律では、以下のような様々な施策が盛り込まれています。

  • 輸出事業者への支援
  • 関係者の連携強化
  • 輸出の円滑化
  • 基本方針・実行計画の策定
  • 品目団体の認定制度

2024年の輸出額が過去最高を更新するなど、日本の農林水産物・食品に対する海外の需要は高まっています。輸出事業者には、政府による支援策を有効に活用しながら、戦略的に輸出拡大を進めていくことが求められます。

【記事監修者】

瀧井 朝永

食品管理者/飲食店オーナー。
鰻屋で調理経験を積み、その後割烹料理屋での経験を経て、パブやレストラン、ダイニングバーなど複数の飲食店を経営。現在は、東京・日暮里で「くいもの居酒屋Foods bar」を営む。

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